映画「ウィッシュ」感想

ディズニーの新作映画、ウィッシュ見ました。100周年記念作品らしいし、私も記念に感想を残しておこう。

※作品内容のネタバレ含みます

星に願いを

 この作品のテーマソングと言えば予告で散々聞いた「This Wish」だろうが、作品を見て見るともう一つ重要なテーマソングがある。「星に願いを(原題:When You Wish Upon a Star)」だ。1940年公開のディズニー映画「ピノキオ」の挿入歌である。これが作中のBGMで何度か流れる。おそらくこの作品名「ウィッシュ(原題:Wish)」もここからきているのだろう。

 ウィッシュでも「スター」と呼ばれる存在が主人公アーシャの願いを聞き届け、その前に姿を現す。この「スター」はいろいろと不思議なことができるが「願いを直接叶える」わけではなく「願いを叶える手伝いをする」存在だ。「星に願いを」は「星に願いを祈ればいづれ叶う」と歌っているが、このスターの存在はそれとは少し違う。

 この作品の中では「夢は自分で叶えるもの(誰かに叶えてもらうのを待つものではない)」という哲学があるように思う。それ自体は、他の作品にもある考え方だろうからありきたりとも言えるが、そこに至る論理展開がこの作品は結構面白い。

  1. アーシャの願いにスターが応えたのはなぜだろう?
  2. それはアーシャ達、この世界に住むものはそもそも星から生まれたからだ。宇宙のガスが集まり星が生まれ、その中から生命が生まれた。
  3. だから願いを叶える力は星に祈るまでもなく自分たちが持っている

 意外なほど科学に寄った説明がされている。言われてみれば確かにその通り。宇宙に散らばった星間ガスが集まって色々あって地球が出来て、その地球の中の物質から私たちの体は出来ている。星に願いを叶える力があるのなら地球と言う星から生まれた私たちにもそれが自然と備わっているはずだ。サイエンスとファンタジーの融合のような論理でなかなか面白い。

 そしてこの考え方を採用することで「星に願いを」の意味も変質していく。星に祈るだけで願いが叶う、という歌詞の内容が実際には自分に対しての祈り、強い意志のあらわれのように変わっていくのである。

ちょっと同情してしまうヴィラン、マグニフィコ王

 この作品を見ていて心を動かされたのは今回の敵役、いわゆるヴィランであるマグニフィコ王である。なんだか見ていて、仕方がないけど可哀そうな奴だなぁ、と思ってしまった。

 この王は過去に争いで両親や国を失い、その願いが断たれるところを見た。そしてその経験から人々の願いを守ろうと世界中の魔法を勉強して国を作った。それが今作の舞台、ロサスである。彼は国の人間が18歳になるとその願いを捧げるように言い、その願いを保管する。そして定期的にそれを人々に返して願いを叶える。

 それだけならまあいいのだが、この王は自分に都合が悪い願いは叶えないようにしている。しかもアーシャの祖父の願い「ウクレレ(?)を演奏してみんなを楽しませたい」という願いに対しても「若者たちの扇動して国を脅かそうとしているのでは?」と疑心暗鬼になるほど過剰なものであった。

 そしてそのことをアーシャに話してしまい、アーシャは行動を起こすことになる。最終的に王は禁術にも手を出し、人々の願いを自分の力に変換させ人々を脅かすまでになり、最後は封印されてしまう。

 しかし……前述した王の過去を聞いているとなんだかやるせない。彼が願いを守りたい理由、極度に国を脅かすものを恐れる理由が良くわかるからだ。ある意味で王は自分の力で願いを叶えたこの作品のテーマに則っている存在である。彼は自分の願いを打ち砕くかもしれないものに過敏になってしまっただけなのだ。その彼の失脚がこの作品の叫びのように見える。「自分の力で願いを叶えるだけではダメだ!」という叫びに。

 王には明確に「今なら引き返せる」場面が描写されている。禁術に最初に手を伸ばそうとした場面である。そこで彼を止めたのは王妃だ。彼は妻に感謝を述べて禁術の書を再び封印する。だがその後、群衆の愚かさに怒り心頭した王は王妃がいない場でついに禁術の書を開いてしまうのだ。

 この作品では「1人でいてはいけない」という警告もテーマにあるように思う。王も1人の時に道を踏み外した。アーシャ達の仲良しグループの中で騎士志望のやつ(名前忘れた)も1人になり仲間を裏切った。人は1人だけでは自分を上手くコントロールできないらしい。願いを叶えるのを補助する誰か……つまり「スター」のような存在が人には必要なのだろう。

おわりに

 思ったより3倍くらいミュージカルしている作品だった。特に「This Wish」はいいね。序盤で出てきて終わりかと思ったら最終局面でもいい使われ方をしていた。星が奪われても、人々の中に星があるから王の魔法にも対抗できる。ただの奇跡じゃなく地に足ついた理由がその後ろにあって、好感度が高い作品だった。

 最後に伝記的批評的なことを言うが、あのスターがヤギや植物をしゃべらせるところはウォルト・ディズニーそのものと捉えることも出来るだろう。そのスターが作中で「願いを叶える手伝いをする」存在だというのが素敵だ。ディズニー100周年記念にふさわしい作品だったと思う。