はいふり批評5周年記念編 船と家族の相似形

あんた初めからわしらが担いどる神輿じゃないの

組がここまでなるのに誰が血ぃ流しとるの

神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみいや

――仁義なき戦い

はいふり放送から5周年おめでとう!

なんかやろうと思ったけどなんもやることが思い浮かばんので、いつものように批評を一個投稿することにしましたとさ。

特定の批評理論で云々ではないのだが、はいふりを見ていて漠然と思っていたことを文章に落としてみたいと思う。

船の物語としてのはいふり

船というのは、あらゆる乗り物のなかでも少し特殊なものである。船に乗る者は、その中で衣食住を完結させて生活することになる。それはまさに移動する家である。

はいふりで船を家、船員を家族と称するのも、そのことに関連しているのだろう。実際に、船員を家族と表現する海上自衛隊の艦長もいる*1

そう、船と家はよく似ている。だが決定的に違う部分もある。所属する人数である。これは些細な違いに聞こえるかもしれないが、物語を語る上では重要になってくる。

例えば「家族の物語」と銘打った作品で「存在しているのは示されているが、結局最後まで出てこない家族の一員」がいれば疑問符を持たれるだろう。「はたしてそれは家族の物語と言えるのか」と。

同じことは、船の物語では言われない。たとえ艦長、副長、機関長といった一部の人間しか出ていなくても「数が多いのだからしょうがない」と割り切られてしまう。なにしろ駆逐艦でも100名を超える船員がいるのである。私もいくらか有名な映画・アニメなどは見たが、船員がすべて描かれていたのは「蒼き鋼のアルペジオ」くらいだった。ただ、あの作品は船員が5名程度しかないので、他と比較するのも違う気がする。

そんなこんなで、船の物語であっても船員がすべて出ないのは普通であり、それが今まで受け入れられてきた。たとえ見えない船員がどれほど重要な役割を担っていても、見えないことを良しとしてきた。そんな中で船員をすべて描いた作品が現れたのだ。それがはいふりである。

船員すべてに顔があり、名前があり、趣味があり、苦手なことや得意なことがある。たとえ必要な役職や人員をギリギリまで削ったとしてもそのすべてを登場させた…それははいふりが「船の物語」であり「家族の物語」だったからだろう。

今一度、はいふりの物語を振り返ってみよう。

はいふりはお互いがお互いを支えていく物語である。1~6話まで反目していた艦長と副長は7話で互いを理解し、8話ではクラス全員で作戦をやり遂げる。しかしここでは終わらないのだ。8話以降、副長の宗谷ましろは艦長に一定の信頼を置いたことで、自分から意見を言わなくなる。ほとんど艦長に頼りきりになってしまうのだ。

どうしますか、艦長

上記のセリフに類するものを、宗谷ましろは9話で4回も発言する。11話で岬明乃の心が折れてしまった後も、艦長に決断を促すことしかできなかった。そして、そのことが柳原麻侖の話とマヨネーズ宣言につながっていくのである。

艦長の支えになりたい!

艦長は今まで通り決断して、行動して、運を引き寄せて*2、その代わり他のことは私が…いや、晴風のみんなが何とかする!

足りないものを補い、お互いを支えていく。それは家族にも、船を動かす場合にも必要なことである。航海科、砲雷科、主計科、機関科と船員が分かれ、各々の役割を果たさなければ船は動かない。だからこそ、船員を全員描く。何気ない船の上の日常やいさかいも含めて、そこで何が起きて何が変化していったのかを。

この積み重ねがあったからこそ、12話のアバンで艦尾から艦首にかけてゆっくりと映しだされる晴風の姿は打ち震えるような雄大さをたたえているのである。あの晴風は、一丸となった家族の隠喩であり、「船の物語」と「家族の物語」のまさしく到達点を表現していたのだから。

近いようで遠かった2つの物語は、はいふりという作品で初めて一つになることができた。この素敵なマリアージュは、はいふりの達成した偉大な業績の一つなのである。

おわりに

はいふり放送から5周年おめでとう!(2回目)

やっぱりはいふりは最高の物語ですよ。改めて見返してみたけど素晴らしい。こういう最高に素晴らしいアニメに出会うのには、どうやら5年ほど時間が必要らしいので一つ一つの出会いを大切にしていかなければならない。はいふりとの素晴らしい出会いに乾杯。また5年後の素晴らしいアニメにも乾杯。

いつか私の素敵な図書館が、はいふりみたいなアニメたちで溢れかえることを願って。

*1:https://www.asahi.com/articles/ASMD17F08MD1PLZB009.html

*2:ここで言っていることを心にとどめて劇場版のラストを見直すと、宗谷ましろは確かに艦長への切符を手に入れていることを理解できるだろう