2021年10月29日に公開された劇場アニメ「アイの歌声を聴かせて」を見たのでその感想書きます。ネタバレありで書くので気を付けてください。
よほど有名作でない限りアニメ映画は上映しない横須賀HUMAXシネマズでやるらしいので興味をもって見てみた。これがなかなかいい作品だったので思ったことをまとめておきたいと思う。
青春群像劇とAIと歌
この物語は基本的に高校生の群像劇になっている。大小さまざまな問題を抱えている5人の高校生の下に実地試験を開始した"強いAI*1"である「シオン」が現れ、関係をひっかき回しながらも問題を解決に導いていく、というもの。
この群像劇において特徴的なのは「AI」と「歌」についての扱い方だろう。結論から言うとこの2つの要素は等価であり、両方とも問題を解決するための触媒となっている、ということである。
物語の舞台となる街では"弱いAI*2"の実地検証が行われており、主人公サトミの家でも口で命令すればカーテンを自動で開けてくれたり、外出したら自動でロックしてくれたりなど「IoT機器とAIが普及した近未来」的な描写が展開される。ここでのAIの扱いは現実とかなり近しく、「生活をより便利に、豊かにしてくれるアイテム」と言ったところである。
この作中において、"強いAI"のシオンでもこの立ち位置は変わらない。主人公はシオンではなく、あくまで5人の高校生であり、シオンの登場は彼らの間の関係に変化をもたらすだけである。そして、その変化をもたらすときに行うのが「歌」なのだ。
サトミと他の4人を引き合わせ、同じ秘密の共有をしたときシオンは歌っていた。ゴッちゃんとアヤの中を取り持つときも彼女は歌った。サンダーの柔道の相手をするときも彼女は歌った。サトミとトウマをくっつけるときも彼女は歌った。そして、自分がピンチの時には彼女は歌わなかった*3。
シオンも歌も、問題を解決するための仲介者に過ぎない。実際に反応を起こすのは人間たちなのだ。ちょうどムーンプリンセスのように、歌で問題解決の手助けをするのがシオンなのである。
それを強調しているのがラストのシーンだろう。すべてが解決した後私はてっきり再び体を得たシオンが再転入してくるようなものを想像していたのだが、そうではなかった。彼女はあくまでサトミたちを見守り続ける立場なのである。実際にこれからの関係を進めていくのは人間であるサトミ、トウマ、ゴッちゃん、アヤ、サンダーなのだ。
この作品の素晴らしい点はこのラストだろう。自分で考え行動するAIを出しながら、その在り方を「生活をより便利に、豊かにしてくれるアイテム」という脇役で描き切っている。あくまで主演女優はサトミであり、シオンは最高の助演女優なのだ。
正直な話見るまで「AIと歌がどう結びつき、結びつく意味があるのか?」という点について疑問を持っていたのだが、ここまでうまく要素を融合できるとは舌を巻くばかりである。多くの人に見てもらいたい作品だ。
おわりに
ストーリーに関してばかり記載していたが、ミスリードを誘う演出なども多く取り入れられており、見ていてけっこうドキドキさせてくれる作品でもあった。パンフレットを買い忘れてしまったので、今度劇場による時に買っておこうと思う。
っかー!俺もシオンちゃんみたいなAIロボットが家に欲しいな~~~~!