はいふり批評4 心にミリタリー魂があるんだよ

「このニ長調ソナタはたしかに、一般的な意味合いでの名曲ではない。構築は甘いし、全体の意味が見えにくいし、とりとめなく長すぎる。しかしそこには、そのような瑕疵を補ってあまりある、奥深い精神の率直なほとばしりがある」

ーー村上春樹意味がなければスイングはない

お仕事もの、戦闘美少女ものに続いて、「ミリタリーもの」としてのはいふりを確認してく。

no-known.hatenablog.com

 

「ミリタリーアニメ」とは何か?

まず最初に確認しなければならないのは「ミリタリーアニメ」というアニメはいったいどのような特徴を持っており、どのような期待をされる作品なのだろうか、ということである。

ミリタリーアニメと呼ばれるアニメたち

私は「ミリタリーアニメ」の定義を寡聞にして知らない。ネットで探してみたが、正確な定義は無いように思われる。そのため、さしあたりこの批評で述べるミリタリーアニメを定義する必要がある。

まず最初に、「ミリタリー」とは英語で「軍の」「軍人の」「軍隊の」という意味らしい。では、軍などが関わってくるアニメがミリタリーアニメなのかというと、そうではない。近年で一番ヒットしたといわれるミリタリーアニメである「ガールズ&パンツァー」は戦車は出てくるが軍は出てこない。

一般的にミリタリーアニメと呼ばれるアニメを定義するため、動画配信サイトの「バンダイチャンネル*1」と「dアニメストア*2」でのジャンル分けを参考にする*3

上記2サイトでミリタリーアニメに分類されているのは以下のアニメだ(2018年11月4日調べ)。太字は双方で被っている作品、赤文字はバンダイチャンネルdアニメストアで分類が違う作品である。

  バンダイチャンネル dアニメストア
ミリタリー作品 沈黙の艦隊紺碧の艦隊旭日の艦隊戦闘妖精雪風ジパングタクティカルロア戦場のヴァルキュリアヨルムンガンドガールズ&パンツァーハイスクール・フリート陸上防衛隊まおちゃん青空少女隊GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 紺碧の艦隊旭日の艦隊ジパング戦場のヴァルキュリアヨルムンガンド陸上防衛隊まおちゃん青空少女隊GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり蒼き鋼のアルペジオストライクウィッチーズうぽって!
ミリタリー作品以外 蒼き鋼のアルペジオストライクウィッチーズうぽって!艦隊これくしょん幼女戦記終末のイゼッタよみがえる空 -RESCUE WINGS-ノブナガン ハイスクール・フリート艦隊これくしょん幼女戦記終末のイゼッタよみがえる空 -RESCUE WINGS-ノブナガン

 両者で配信しているアニメが全く同じではないため、同じ基準では比較できないものの*4ここからミリタリーアニメの特徴を記述できるのではないだろうか。

しかし、作品群を眺めてみると、基準の決定は困難に思われる。直感的に「火器を用いて戦闘を行う作品」というくくりを考えてみても「青空少女隊」のように当てはまらない作品が出てくる。また、「幼女戦記」「終末のイゼッタ」が双方でミリタリー作品から外されていることも、条件に当てはまらない。

次に、「近代的な火器、軍用機、軍用車両、軍艦、自衛艦が主として活躍する作品」といった定義を採用するとしよう。それでも「よみがえる空 -RESCUE WINGS-」のように条件に当てはまっているがミリタリーから外されている作品があるのだ。

ジャンル分けにおける時間軸の導入

wikipediaの引用になるがSF作家のデーモン・ナイトはSFの定義の難しさに対して「サイエンス・フィクションは、その時にそう呼ばれたもの」と述べている。

ミリタリーに対しても同様に、時代によってそのジャンルに属するとされるものが変わっているのではないかとここでは考えてみる。そこで、上記の作品から近年(2010年代)のものを抽出してみた。

  バンダイチャンネル dアニメストア
ミリタリー作品 戦場のヴァルキュリアヨルムンガンドガールズ&パンツァーハイスクール・フリートGATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 戦場のヴァルキュリアヨルムンガンドGATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり蒼き鋼のアルペジオうぽって!
ミリタリー作品以外 蒼き鋼のアルペジオうぽって!艦隊これくしょん幼女戦記終末のイゼッタノブナガン ハイスクール・フリート艦隊これくしょん幼女戦記終末のイゼッタノブナガン

 こうしてみると先ほど仮に定義した「近代的な火器、軍用機、軍用車両、軍艦、自衛艦が主として活躍する作品」という枠組みが有効なように思われる。「幼女戦記」「終末のイゼッタ」は魔法の力を使って戦うため除外、「ノブナガン」もAUウェポンの力を使って戦うため除外。「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」は主人公側の自衛隊が魔法を主に使うわけではないのでミリタリーの枠に当てはまる。といった具合である。

ここでは一旦双方のサイトでジャンル分けが一致しているもののみに絞って考えている。上記の考えで行くと、「蒼き鋼のアルペジオ」は超科学的な力を用いるため除外。「うぽって!」は当然ミリタリーアニメ。「ハイスクール・フリート」もミリタリーアニメとなる。

ミリタリーアニメに求められるもの

先ほどミリタリーアニメを「近代的な火器、軍用機、軍用車両、軍艦、自衛艦が主として活躍する作品」と定義した。では、このミリタリーアニメで求められていることはいったい何か。

当然のように近代的な火器等に関わる評価ポイントであることは間違いない。その評価ポイントを知るためにアニメ批評サイトを利用することにする。

あにこれ」というサイトでははいふりを含めた様々なアニメ作品について、視聴者がその評価をつけられるようになっている。その評価からミリタリーアニメに求められていることをくみ取ってみることとする。

www.anikore.jp

 

評価の抽出に関して、以下の単純な条件を付ける

  • 参考にするのは3以上4未満の評価だけ*5

この条件は極端な評価と意見を取り除くために設定した。フィギュアスケートの採点と同じようなことである。ちなみに利用規約で口コミの転載はできない。

上記の条件で絞ると、該当する評価の数は以下の通りだった。

さて、あにこれのサイトを見てミリタリー的な評価について調査をしていたが、意外に「ハイスクール・フリート」や「ガールズ&パンツァー」についてのミリタリー的な評価は少ない。「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」も同様の傾向がみられる。「ヨルムンガンド」に関しては「銃を使った戦闘シーンが良かった」という意見がみられた。この「良かった」は文脈的に「カッコよかった」程度の意味合いで取られるべきかと思う。銃の描写に対する精密さなど、一般的にミリタリーとして重要そうに思える部分に言及している評価はほぼ皆無だ。

考えてみれば、そもそもアニメを見るのはアニメオタクであり、ミリタリーオタクではない。使用される火器・兵器の精密さなどアニメオタクは気にしないということなのだろう。ではアニメオタクはミリタリーアニメに対して何を求めているのか?

ここで私は以下の2つを想定して話を進めることにする。

  1. アニメオタクは「カッコイイ、ミリタリー」を求めている
  2. アニメオタクはギャップのための属性として「ミリタリー」を求めている

1について「カッコイイ、ミリタリー」と言っているのは、つまりリアルな描写など求めていないという意味である。戦車・銃・軍艦といった兵器を用いて「それっぽく」戦っていればよい、というわけである。これは「ガールズ&パンツァー」で顕著であり、作中の戦車はおよそ現実とは思えない動きを時折見せる。しかし、多くの視聴者はそこを批判しない*6

2についてだが、「ガールズ&パンツァー」については「戦車」と「女子高生」、「ハイスクール・フリート」だと「戦艦」と「女子高生」、「GATE」だと「自衛隊」と「ファンタジー世界」といったように本来は相容れない属性を組み合わせて、ギャップを生むことでそれを魅力・特徴としている。

アニメにとってのミリタリーとは、作品に魅力と特異性を作り出すための一要素として扱われているのかもしれない。

 「ミリタリーアニメ」としてのはいふり

ここまで、「ミリタリーアニメ」の定義と、その定義にはいふりも含まれること。そして、ミリタリーアニメに求めていることを考察してきた。次の考察ははいふりはミリタリーアニメとしてどの程度の魅力があるのか(あるいは無いのか)、という点になる。

はいふりは「カッコイイ、ミリタリー」か?

 「カッコイイ」の定義については、議論を呼ぶことになるだろう。「あにこれ」で検索してみても、作中でどの部分がカッコイイか言及されている投稿はない。しかし、ガルパンで検索してみると「戦車がカッコよかった」という投稿が目立つ。では、はいふりでもカッコイイを生み出すのが艦船ではないかと考えられる。

そこで、私がはいふりに感じた「カッコイイ」を列挙してみる。

  • 第五話、東舞校教官艦からの墳進魚雷発射シーン
  • 第八話、比叡の座礁に成功するシーン
  • 第十一話、ブルーマーメイドの戦闘シーン
  • 第十一話、最後の「我、貴艦の救出に向かう!」のシーン
  • 第十二話、アバンで晴風が武蔵に向かっていくシーン
  • 第十二話、晴風、シュペー、てんじん、比叡、浜風、舞風の単縦陣
  • 第十二話、「High Free Spirits」が流れている全シーン

こうしてみると、確かに艦船が関わっているシーンが多い*7。ここで注目すべきなのは、カッコイイシーンが主に艦船の直接戦闘がメインとなるシーンになっていること、そして物語の後半に集中していることである。

理由は不明だが、基本的に人は「逃げる」よりも「立ち向かう」という言葉の方に良い印象を抱きやすい。「逃げ惑う人々の流れに逆らって脅威に向かっていくヒーロー」という構図に「カッコイイ」という評価を下す傾向がある。カッコイイシーンが直接戦闘に偏っているのはそういう傾向のためであろう。

ところがはいふりは、以前述べたように最初は逃走劇から始まり次第に海を守る仕事に目覚めていく物語である。そのため、直接戦闘を行うシーンがそもそも少ないのだ。

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そして、その直接戦闘シーンは後半に偏ってしまっている。先ほど考察したようにミリタリーアニメに求められているのは「カッコイイシーン」なのに、それがアニメ前半ではあまり感じられない構成となっているのだ。そのことがはいふりをミリタリーアニメとして視聴した人に不満を感じさせている可能性はある。

これはミリタリーアニメとしてはいふりを観たときの、構造的欠陥とも言えるだろう。

ロボットアニメを見ていると思っているのに、8話までロボットが出てこないとなるとそのフラストレーションは想像に難くない。

ミリタリーアニメとしてのはいふりの魅力

ミリタリーアニメとして見たときに、はいふりに構造的な欠陥があると結論づけるのは容易である。

だが、それではいふりにあるミリタリーアニメとしての魅力を全否定する必要はない。

例えば第五話の墳進魚雷発射のシーン。発射され、ロケット推進で標的に近づく魚雷。弾頭を切り離してパラシュートを展開、さらにパラシュートを切り離し着水。着水した魚雷が武蔵へと向かっていく。

この一連のシーンはアニメでなければ描写不可能なアングルで、墳進魚雷のギミックが克明に描かれる。コンテを切った人間のフェティシズムが感じられるような出来である。この描写に「カッコよさ」を感じてしまうのは、ロボットアニメの変形シーンで映る内部ギミックに感じた「カッコよさ」を重ねているからかもしれない。

 

さらに、私が好きなシーンに十一話のブルーマーメイドの戦闘シーンがある。ある程度アニメに慣れた人間であれば、ここで登場したブルーマーメイドは武蔵を止めることができないことを映像を見ずとも理解する。しかし、このシーンのブルーマーメイドはカッコイイ。

負けるのは分かっているのに、いや分かっているからこそだろうか?武蔵に立ち向かうインディペンデンス級と女性だけの号令に否応のないカッコよさを感じてしまう。この世界でブルーマーメイドが憧れの職業になっている理由が実感できる良いシーンである。

このほかにもはいふりにはミリタリーアニメとして十分な「カッコイイ」シーンが詰まっているのである。その描写の中に、制作者の情熱のほとばしりを感じざるを得ないほどに。

おわりに

ここまで語ってきたことを整理する。

  1. 「ミリタリーアニメ」とは2018年現在においては「近代的な火器、軍用機、軍用車両、軍艦、自衛艦が主として活躍する作品」である
  2. アニメオタクはミリタリーアニメに「カッコイイシーン」「ギャップ要素」を求めている
  3. はいふりをミリタリーアニメとして見た場合、物語前半にの要求を満たせる個所が少ないという構造的欠陥がある
  4. はいふりという作品全体を見ると、十分に「カッコイイ、ミリタリー」を満たせている

ここで再び私は、「はいふりはお仕事系アニメである」という主張を繰り返すことになるだろう。はいふりは「戦闘美少女」「ミリタリー」として見たときよりも、「お仕事系」として見たときの方が、その血が濃い。

では、ジャンル批評の最後にはいふりをSF作品として見た場合をまとめたいと思う。

 

 

*1:https://www.b-ch.com/

*2:https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/tp_pc

*3:この2サイトを選んだのは、単純に私がよく利用しているという理由からである

*4:例えば、ガールズ&パンツァーdアニメストアで配信していないため、分類自体不明である

*5:あにこれでは評価の最低が1で最高が5。そのため、3はちょうど平均値となる

*6:ギャグ的なツッコミを入れることはあるが

*7:そもそもはいふりで艦船が関わってないシーンの方が少ないだろ、というツッコミをここでは無視する