はいふり批評19 日本占領、その先に

私は日本国民に対して事実上無制限の権限をもっていた。歴史上いかなる植民地総督も、征服者も、総司令官も、私が日本国民に対してもったほどの権力をもったことはなかった。私の権力は至上のものであった。

ーーダグラス・マッカーサーマッカーサー回想記」

第二次世界大戦は70年以上も前に終わった。私も戦後生まれで、戦争のことは記録の中でしか知らない。だが、戦争の記憶というものはその民族に数世紀は残るともいわれている。では、その戦争の記憶が今の文学やアニメにも影響を与えているのであろうか?

今回は、かつての植民地政策が残した影響を読み取っていく批評である「ポストコロニアル批評」を試していく。

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はいふり批評18 はいふりの断面図を眺めよう

全体は部分の総和にあらず(The whole is greater than the sum of its parts.)

ーーアリストテレス

世界の神話や昔話の中には、不思議な共通項を持っているものが多い。「母親が死んだあと、腹から生まれてきた英雄」というパターンの話は日本中に広く分布し、また中国にも似たような話があるという*1

今回進めていくのはこのような「物語の構造」を取り扱う批評。「物語論批評」である。ケーキにナイフを入れてその断面図を観察するように、はいふりという物語が一体どのようにできているのか見ていこう。

*1:祖父江孝男著「文化人類学入門」

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はいふり批評17 家族の虚構、虚構の家族

3年前、タイに旅行に行ったときのことだった。バスのガイドさんがタイの王朝について移動しながら説明をしてくれていて、私はそういった歴史などに興味を持ち始めていたころだったからとても楽しく聞いていた。その中で、

現在のバンコク王朝の前のトンブリー王朝の王には子供ができず*1、親友だったラーマ1世に国を譲った

という話があった。その時私は「なるほど。そうなのか」と納得していたが。Wikipediaではラーマ1世は乱心した前王を殺して王位についたとされている*2。さて、どちらが正しい歴史なのだろうか。

いや、どちらが「正しい」など考える必要はない。私たちはもう物語としての歴史にしか触れることができず、それゆえに多様な解釈ができるのだから。

今回取り扱うのは、歴史を絶対視しないという考え方から生まれてきた批評「新歴史主義批評」である。

*1:体が弱く、だったかもしれない。記憶があいまいだ

*2:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%9E1%E4%B8%96

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劇場版ハイスクール・フリート 上映館雑感

今日で劇場版ハイスクール・フリートを上映しているところが大分減ってしまいますが、そんなタイミングで私が行った各上映館での視聴感想をまとめていきます。

アニメの内容には触れないのでご安心ください。

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よーそろー!
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はいふり批評番外編 劇場版ハイスクール・フリート

はいふり」改め「ハイスクール・フリート

ーーハイスクール・フリート公式

2020年1月12日、記念艦三笠で先行上映された劇場版ハイスクール・フリートを見てきた。最後A-1 Picturesの柏田さんがでてきて作画の謝罪をしたのには笑ったが、とにかく劇場版の批評を軽くしていこうと思う。

当然劇場版のネタバレを含むので、見ていない方は絶対に読み進めないようにしていただきたい。

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はいふり批評16 船が勝手に進めるいうんなら、進んでみぃや!

人は女性に生まれるのではない、女性になるのだ

ーーシモーヌ・ド・ボーヴォワール第二の性

2019年の後半あたりからだったろうか?フェミニズムフェミニストとされる人たちの主張が大きく取りざたされるようになったのは。本来は精神分析批評の後あたりがこの批評の適当な場所だと思うが、悪目立ちしたくなかったので少しずらした。

今回取り扱うのは「フェミニズム批評」である。女性運動と共に生まれたこの批評で、女性ばかりの作品であるはいふりを読み解いていこう。

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はいふり批評15 はいふりはなぜ成功したのか

ああ、金、金!この金のためにどれほど多くの悲しいことがこの世に起こることであろうか!

ーーレフ・トルストイ

アニメの製作者として、私たちが一番最初に思い浮かべるのは監督、脚本、キャラクターデザインなどになるだろう。アニメの製作現場を描いたTVアニメ「SHIROBAKO」では制作進行という普段あまり表に出ない人物を中心に話を進めていた。

今回の批評はそのアニメ製作者の中の「プロデューサー」に焦点を置いた批評となる。仮にこれを「ビジネス批評」としよう。

※現在TVでハイスクール・フリートの放送をやっていますが、この批評にはネタバレが多分に含まれるため、気を付けてください※

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